漢方薬には眼疾患の治療のための処方はたくさんあります。
明治時代に蘭学が正式な日本の医療として指定されたため、それまで中心的な存在であった漢方薬の使用がだんだん少なくなり、一時は眼疾患に対しての漢方は廃れてしまったような時期もありましたが、最近になり、西洋医が一辺倒ではなく漢方を希望され人が増えてくると同時に、眼疾患に対する漢方薬も見直されてきています。
わかりやすいように病名別に代表的な処方を紹介いたします。 |
|
◆白内障におすすめする漢方薬
|
症状 |
水晶体の混濁が次第に進行して、光が識別できなくなります。初期のうちは目がかすみ、黒い物が空中を漂っているように見えるなどの症状からはじまります。 |
病証 |
いずれも虚証です、肝腎両虚証 |
処方 |
杞菊地黄丸(コギクジオウガン)が良いでしょう。初期の状態でかすみ目や疲れ目などが気になる段階で服用してもかまいません、体の老化を防ぎ眼の病気の進行を予防してくれます。
白内障がひどくなる前に、服用を開始したほうが良いでしょう。
また、体の冷えが強く、足腰ががたつく、腰も痛いなどの症状が強い場合は、八味地黄丸(ハチミジオウガン)を長期的に服用することがよくあります。
八味丸は代表的な老年期からの漢方薬ですから簡単に入手できると思います。 |
|
◆緑内障におすすめする漢方薬
|
症状 |
西洋医学では眼圧の上昇が網膜の神経細胞の機能を傷害して、視野の狭窄や失明などにつながる病態ですが、漢方では、青盲(セイモウ)といって、眼球の外見は正常に見えるが、視力減退、失明などにつながる病気とされています。
同様に、中心性網膜炎、視神経萎縮、網膜変性症、なども青盲のなかに含まれています。 |
病証 |
血虚肝鬱証もしくは肝腎陰虚証 |
処方 |
「肝は目に開竅し、目は血を受けてよく見る」と漢方で説明されます。
精神的な動揺や、イライラする、怒りやすい、手が震える、などの症状が同時にある場合は、逍遥散(ショウヨウサン)が使われます。
また、食欲がない、顔色が黄色い、息切れ、下肢の無力感、泥状便、疲れると微熱が出る、などの症状が同時にある場合には、補中益気湯(ホチュウエッキトウ)が使われます。
どちらも保険が適用されていますが、それぞれの漢方薬の効能効果には緑内障などは記載されていませんから、西洋薬と併用の場合は、担当の医師、もしくは漢方専門の薬剤師にご相談ください。
まれに、外傷による眼圧上昇があります。外傷によって眼の脈絡が受傷し、気滞血オが生じたため眼球に損傷がないのに視力が低下する状態ですが、同時に頭痛、眼球痛などがでることもあります。
転んで、目をぶつけた、交通事故で眼圧上昇、視力が低下したなどの場合ですが、このようなときは煎じ薬で対応するしかありません。
代表的な処方は桃紅四物湯加防風羌活白シ(トウコウシモツトウカボウフウキョウカツビャクシ)が良いでしょう。さらに枸杞子、女貞子、五味子など補腎明目薬を選んで加えてもかまいません。
この処方は専門家にご相談ください。市販品はありません。 |
|
◆近視におすすめする漢方薬
|
症状 |
先天性の近視には漢方の処方はありません。
すべて後天性の近視に対しての処方です。 |
病証 |
肝腎両虚、もしくは気虚 |
処方 |
文献「銀海精微」より「問いて曰く、よく近く見て遠く視ること能わざるは何ぞや。答えて曰く、血虚気不足なり。」とあるように補気補血剤が治療の中心になります。
また文献「此事難知」には「目よく近く視るものは、その有水に責し、遠く視ること能わざるは、その無火に責す」とあり気血両虚からくる陽虚が原因と解説しています。陽気(生体が持つエネルギー)を活発にし暖める方向に働くを補う薬物の配合が大事であると解説しています。
中医学では、気虚の近視に定志丸:遠志・菖蒲各2;白伏苓・人参各1を、また、肝腎両虚には補腎磁石丸をよく使用しますが、どちらの処方も日本ではでは流通していません。
入手可能な処方としては小太郎漢方から発売されている、滋腎明目湯がありますので、それが良いでしょう。こちらはどちらかというと中年以降の近視に適します。
若い人の場合は、補気補血を中心とした八珍湯主体の処方が適するでしょう。
受験などで疲れもある場合は、一番入手しやすい補中益気湯を利用してもかまいません。
専門家にご相談ください。 |
|
◆飛蚊症におすすめする漢方薬
|
症状 |
飛蚊症は、もう治らない。とよく言われますが、この症状は一度気にすると非常に気になるものです。
体質により使用されている漢方処方がありますから参考にされてください。
漢方では「雲霧移精」、「飛蠅散乱」、「眼前黒花」、などと呼ばれています。 |
病証 |
気血両虚+肝腎両虚証、もしくは湿熱証 |
処方 |
虚証に対しては、人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ)が良いでしょう。
実証(湿熱:体が水を含んだように重く、また熱っぽい感覚がある状態)には竜胆潟肝湯加減リュウタンシャカントウカゲン)が良く使用されています。
飛蚊症が出るときの特徴として、体に気づかないわずかの変化があることです。
心、脾などが虚して気血が不足し、目を滋養できなった状態と考えています。益気養血の効能があり、市場でよく流通している処方で求めやすい、人参養栄湯が良いでしょう。
飛蚊症はすぐには治りませんから少し気長に服用して見るとよいでしょう。
目が充血しやすい、口が辛い、イライラしやすい、味の濃い食べ物が好き、など実証の方は竜胆潟肝湯が良いでしょう。この処方も少し長期的に服用が必要です。 |
|