◆不妊症、結婚後3年間子供ができない、婦人科では全く異常なし
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20歳代女性 |
不妊症、結婚後3年間子供ができない、婦人科では全く異常なし。 |
婦人-06 |
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◆症状と経過
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28歳の女性、結婚して3年を経過してまだ子供ができないとご相談に見える。
体格はやせ形、身長は152cmで小柄、顔色は通常もしくは色白、嫁ぎ先の両親と結婚当初から同居されている、姑、舅さんとの仲も良く家庭は円満(ご本人談)で、精神的なストレスはほとんど感じていない。
昼間は近くの職場でパート勤務、帰宅は毎日6時頃になる、嫁ぎ先の両親が夕食の用意をしてくれるので感謝しているとのこと。
ただ一つの悩みが子供ができないことで、面と向かって言われたことはないが、無言のプレッシャーに感じるときが最近多くなってきている、自分の思い過ごしかもしれないとお話しされていた。
性格は明るい方、相談を受けていても好感の持てる明るい雰囲気を持っている方、生理は順調、ご主人は33歳で会社員、以前に(1年前)夫婦で婦人科を訪れ男性の検査もしてもらったが、精子の状態も全く異常が無く医師からは年齢的にみても、焦らずにもう少し待ってみたらどうですか、とアドバイスされている。
排卵誘発剤やホルモン剤などの投薬はなく、少し貧血気味なため、鉄剤を1種類服用している。舌診では通常の白苔、歯形がすこし両側に残っており、胃腸はあまり丈夫ではないとのこと、便通は毎日、生理の後に少しめまいをするときがある、汗は普通、夜もよく眠れる。 |
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◆使用処方と考察
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このケースの場合は、排卵障害や腎障害などの重要な問題が母体になく、軽い血虚、脾胃の気虚のみを確認したため、漢方薬は、四物湯合六君子湯を選択した。
また、ご夫婦両方に牡蛎肉エキス(バランスターZ)を、ご主人は毎朝4錠ずつ、奥さんには毎朝2錠ずつ、を併用して頂き、さらにできるだけ即効性の組み合わせをと、ご本人が特に希望されたため、ご主人のみにビタミンE剤(ネーブルキャップ)2Pを朝に服用して頂くようにした。
結果的に奥さんには、四物湯合六君子湯+牡蛎肉エキス(バランスターZ)毎朝2錠ずつ。
ご主人には、牡蛎肉エキス(バランスターZ)毎朝4錠ずつ+ビタミンE剤(ネーブルキャップ)2Pを朝に服用。という処方。
服薬して、2ヶ月後妊娠反応有り、正常分娩にて男子を出産される、初産であったが陣痛もそれほど無く約1週間の入院で退院。
このように、母体に何ら特別な異常がなければ、体質に合わせた漢方で比較的早期に妊娠を経験することが多い、漢方を希望される方はどなたも副作用のない自然な漢方薬で!!を希望され、あたかも漢方薬が強い懐妊作用でもあるように考えて来店されるが、漢方の診断基準に従い証を確認して、それにあわせた煎じ薬で体調のひずみを調節しているだけであり、特別な処方なりを使用しない。
益母草という薬草がありますが、これはなかなか妊娠反応が起きないご婦人に煎じ薬に追加するようにしています。便利な生薬。この症例の場合は最初から加味処方とした。
また一般に女性に特別な異常がない場合は、男性の精子を濃くするような内服薬を選び、男性も同時に治療を行います。特に牡蛎肉エキス(バランスターZ)の強精効果は抜群で、高濃度の亜鉛を含有している健康食品です、さらに俗にセックスビタミンと呼ばれるビタミンE剤と併用すると、非常に精子の濃度や運動能力を上げてくれると言われています。
当薬局でも過去にこのパターンで妊娠するケースは、非常に高く、価格も手ごろで安心して服用できるため、男性不妊症の基本処方としています。
ちなみに、男性で40歳を過ぎている場合は(これも女性に異常が認められない場合ですが)、証を問わず、牛車腎気丸を組み合わせるとよいでしょう。
以下に、中医学で使用される代表的な処方例を紹介いたします。 |
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◆中医学における不妊治療の処方例
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1.「腎虚もしくは気血両虚」
痰飲や血ヲがなく、虚証の場合、症状として下腹部の冷え、性欲の減退、経血の量が少なく色も薄い、生理がだらだらと長く続く、生理がない、尿の色が薄く量も少ない、体に力がわいてこなく腰や下肢のだるさがある、足腰が弱い、等症状をよく訴えるようになります、一般的な腎虚の症状でこの場合は、毓麟珠(イクリンシュ)を用います。〈景岳全書〉薬物構成は(人参、白朮、茯苓、白芍、川弓、当帰、熟地黄、菟絲子、杜仲、鹿角霜、蜀椒、甘草)。
また、脱力感が強くあり、やせている、顔色が悪い、めまいやふらつき、舌質が淡、舌苔が薄い、など気血両虚の症状のときは、養精種玉湯加党参加可首烏(ヨウセイシュギョクトウカトウジンカシュウ)を用います〈傳青主女科〉薬物構成は(熟地黄、当帰、白芍、山茉萸)プラス可首烏・党参)
処方の構成は中医学独特の組み合わせになりますが、不妊の相談ではよく使用する処方です。
2.「陰虚もしくは肝気鬱結」
陰虚を確認する、ということは何らかの長期的な病気などが原因で、体に熱感やほてりを感じていると言うことです。難しい言葉ですが陰虚血熱などとも表現されます、熱性病などが原因して体の内部にまで傷が深まると子宮に虚熱が出るようになり、その熱により妊娠しにくくなっているということです。
症状として、生理の周期が短くなり、経血が紅色で量が多い、また生理の周期が反対に長くなりすぎて経血も暗黒色で量も少ない、めまいふらつき、口やのどの渇き、顔面紅潮、頬の部分のほてり、時々かーっとからだが熱くなる、寝汗をかくといやな気分になる、舌質が紅で舌苔が薄い、等の症状がある場合は、清血養陰湯(セイケツヨウイントウ)を用います〈婦科臨床手冊〉薬物構成は(生地黄、牡丹皮、赤芍、黄柏、玄参、女貞子、早蓮草)。
肝気鬱結があると、特にイライラしやすくなります、いろいろな原因で精神状態が不安定となり、憂鬱感があったり、人に対して当たってばかりの生活が続くようになります、そうなると気血のバランスが崩れてしまい血の力が半減して子宮が簡単に言うと貧血状態になってしまいますので妊娠が難しくなります。症状としては生理の周期が一定しない、早くなったり遅くなったり、経血の量も一定しない、経血が固まりになることがある、生理の前に乳房が張って痛い、イライラしやすい、怒りっぽいなどの症状を訴えます、この場合は開鬱種玉湯(ゲウツシュギョクトウ)を使用します、〈傳清主女科〉薬物構成は(白芍、当帰、白朮、牡丹皮、茯苓、香附子、天花粉)。
3.「痰湿と血ヲ湿熱」
痰湿と血ヲ湿熱はいずれも実証と判断されます。痰湿の症状が強い場合は肥満体質の方がが多く、衝妊が阻害され妊娠できなくなります。
症状として、明らかな肥満体質、無月経あるいは生理の不順、白色の帯下の増加(おりものが白色)舌苔は白でべったり付いている、等の症状がある場合は啓宮丸加鹿角霜加当帰(ケイキュウガンカロッカクソウカトウキ)を用います。〈中医婦科学〉薬物構成は(半夏、香附子、蒼朮、陳皮、神麹、茯苓、川弓)。
血ヲ湿熱の場合は、これも難しい言い回し方ですが、月経時あるいは産褥時の性交渉のため、邪が胞宮に進入し気血の流れを阻害し湿熱が停滞したためととらえます。症状としては下腹部に痛みがあり生理前が特に強く、微熱や生理不順、生理期間の延長、腰や尾底部のだるい痛み、悪臭のある黄色帯下、下腹部の圧迫感などの症状を訴えます。処方例として朴硝塩胞湯を使用します〈千金方〉、ただしこの処方は作用が強いため(構成薬物も日本人にはあまり歓迎されない薬味)、日本人向けの処方としては、竜胆寫肝湯や血府逐オ丸などがありますのでそれを使用するべきでしょう。 |
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